東京高等裁判所 昭和35年(う)195号 判決 1960年8月25日
被告人 齊藤清治郎
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は弁護人柴田睦夫提出の控訴趣意書に記載されたとおりであるからここにこれを引用し、これに対し次のように判断する。
(弁護人の)論旨第一点について。
所論にかんがみ調査するに、原判決が判示第一乃至第五の罪となるべき事実を認定し、各認定所為につき刑法第二百三十条第一項を適用した上、これらを刑法第四十五条前段の併合罪であるとして法律上の加重に関する法令を適用処断していること、右各事実のうち、判示第二乃至第四の各罪を構成する他人の名誉を毀損すべき記事がいずれも同一新聞紙である昭和三十一年四月三十日附民衆新聞第百五十八号に掲載されていることは所論のとおりである。そして右のように同一新聞紙上に三名の名誉を毀損すべき三個の記事を執筆掲載して、これを発行頒布した場合は、被害者別に三個の名誉毀損罪が成立するけれども、行為としては一個の発行頒布があるに過ぎないのであるから、右三個の罪に対しては、いわゆる一所為数法に該るものとして、刑法第五十四条第一項前段を適用するのが相当である。しかるに原判決はこれらに対し同法第四十五条前段を適用しているのであるから、この点において、原判決は法令の適用を誤つたものというべきである。しかしながら、本件は右三個の事実及びこれらと刑法第四十五条前段の併合罪の関係にある判示第一及び第五の事実からなり、原判決は結局同法第四十七条第十条に則り併合罪の加重をしており、前記三個の罪を一所為数法とするか併合罪とするかにより全体としての処断刑に何等相異をきたさないのであるから、前記過誤は判決に影響を及ぼすこと明らかであるとはいい難く、原判決破棄の理由とはならない。論旨は理由がない。
(その余の判決理由は省略する。)
(裁判官 岩田誠 渡辺辰吉 司波実)